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清水 (1934), pp.228, 229
「若、今夜は野宿じゃぞ」。
お母あの声がした。
すると丹波は、
「帰り道は東海道を稼いで帰るのかい」
「ウン、そうしようと思うがなあ」
「田舎は駄目じゃぞ、精々くれでも半腐りの麦飯じゃからな」。
丹波は不足らしい。
するとお母あは、
「馬鹿云え。この頃の乞食は皆賛沢になりおって、私らの若い頃は腐った飯を食って中毒せぬようにならねば乞食一人前とは言えなかったのだよ。もったいない」。
私はその言語を聞きながら推移して行く世相を面白く味わうのであった。
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引用文献
清水精一 (1934) :『大地に生きる』
谷川健一[編]『日本民俗文化資料集成・1 サンカとマタギ』, 1989, pp.155-292.
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