つぎは,自転球体上の移動軌跡をシミュレートしたものである :
シミュレーション1
赤道で北へ発したときの,その後の移動軌跡
(完全に北向きだと直進になるので,発進の向きをわずかに東に傾けた)
北緯20°, 50°, 80° のそれぞれで「東へ」初速 50 m/s で発したときの,その後の移動軌跡
どうしてこのような軌跡になるのか?
答えは, 「ロジックからこれが導かれる!」
しかしこのロジックの数理は,けっこう複雑である。
よってここでは,厳密を端折った簡単な説明をつくってみることにする。
(1) <遠心力>の転向力効果
自転球体の半径を R,角速度を Ω とする。
緯度 θ の点 P での遠心力 α(θ) は,
これを P での接平面に射影した β(θ) は,
β(θ)=α(θ) sin(θ)=R Ω2 cos(θ) sin(θ)

自転球体を地球としたときの β(θ) を計算してみる。
「地球1周4万km」と「1日24時間」を使って,
R=(40000×1000/2)/π (m)Ω=2π/(24×3600) (radian/s) R Ω2=((40000×1000/2)/π)×(2π/(24×3600))2=(40000×1000)×(2π)/(24×3600)2
これより,θ = 10°, 20°, ‥‥, 80° に対する β(θ) の値は
緯度 |
β (m/s2) |
10° |
0.0058 |
20° |
0.0108 |
30° |
0.0146 |
40° |
0.0166 |
50° |
0.0166 |
60° |
0.0146 |
70° |
0.0108 |
80° |
0.0058 |
(2) <回転速度の緯度差>の転向力効果
緯度 θ の地点の回転速度は,つぎのようになる:

(a) 東向きの移動
球面上の移動の速度は,大円に沿う。
東向きの移動のときは,つぎのようになる:
移動には,この加速度に対する慣性加速度として,同じ大きさで逆方向──即ち,極方向──の加速度がかかる。
この加速度は移動方向と直角であり,転向力加速度である。
そして,左向きである。
シミュレーション2のグラフは,移動発進直後の極側への転向と,その模様の緯度差を表している。
それは,この左向き転向力加速度によるものである。
この加速度の大きさは:
−ddt(R cos(θ) Ω)=−ddθ(R cos(θ) Ω) dθdt=R Ω sin(θ) dθdt
自転球体を地球にしたときの γ(θ)=R Ω sin(θ) (単位は m/(radian⋅s) ) を計算すると:
緯度 |
γ(θ) |
10° |
80 |
20° |
158 |
30° |
231 |
40° |
298 |
50° |
355 |
60° |
401 |
70° |
435 |
80° |
456 |
dθ/dt の方は,時点ごとに,そのときの移動速度 vv (向きと大きさ) で決まる。
(b) 北向きから東に少しずれた方向の移動
移動による回転速度の変化は,つぎの加速度になる:
移動には,この加速度に対する慣性加速度として,同じ大きさで逆方向の加速度がかかる。
この加速度は移動方向と直角であり,転向力加速度である。
そして,右向きである。
ここでは「東へ」と「北北東へ」の二つの移動を取り上げたが,この例が示すように,移動に働く転向力は──同じ半球でも,移動の方向に依存して──右向きにも左向きにもなる。
気象学は「北半球では右向き」を説いているが,誤りである。
(3) 「北に進み,それから南に方向転換」?
シミュレーショングラフは,「北に進み,それから南に方向転換」模様を現す。
この内容は,「北に進むにつれ速度を減らし,やがてゼロになって折返し」ではない。
移動の転向は,軌道の大円の変更である。
この軌道大円変更の連続が,グラフでは「北に進み,それから南に方向転換」のように見えるということである。
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