Up 「般若心経」の訳・註 作成: 2010-03-10
更新: 2010-03-10


    以下に,「般若心経」のわたしの読解を示す。
    この読解は,つぎの訳・註を参考にしている:
      『般若心経・金剛般若経』, 中村元・紀野一義 訳註,岩波文庫


    観自在菩薩 かの全知の求道者が 菩薩:求道者
    行 深般若波羅蜜多 時 智慧探求の修行をしていたとき 般若:求道のゴール概念となる智慧
    波羅蜜多:ゴールに至ること (「此岸から彼岸へ」)
    照見 五蘊皆空 ひとは存在/世界を思念するとき「五蘊」を枠組にしているがこれには実体が無い,という認識に至り、 五蘊:色受想行識
    度 一切苦厄 「苦厄」がどういうことかを看取して,一切の「苦厄」から脱けた。  

    <思想>としての「般若心経」はここからであり,これより前は<宗教>になる
     
    舎利子 舎利子よ 舎利子:「般若心経」は,舎利子という名の人物に語る体裁になっている。
    色不異空 空不異色
    色即是空 空即是色
    「五蘊」のうちの先ず「色」,すなわちひとが「存在・現象」と考えているものには,実体が無い。
    「存在・現象」には実体が無く,そして,実体が無いということが「存在・現象」であるということなのだ。
     
    受想行識 亦復如是 「五蘊」の残りの「受想行識」──「感受する・想う・行う・識る」──も,これと同様である。  
     
    舎利子 舎利子よ  
    是諸法 空相 ひとが「物事」としている諸々には,実体が無い。  
     不生不滅  ひとは「生・滅」を実体のように考えるが,これに実体は無い。  
     不垢不浄  「垢・浄」も,実体が無い。 垢・浄: きたない・きれい
     不増不減 「増・減」も,実体が無い。  
     
    是故 こういうわけで  
    空中 実体が無いということにおいて くうちう
     無色 「存在・現象」というものは,存在しない。  
     無受想行識 「感受する・想う・行う・識る」というものは,存在しない。  
     無眼耳鼻舌身意 「眼耳鼻舌身意」は,ひとが存在/世界を思念するときの枠組を構成するものになっているが,こういうものは存在しない。 身:触ることで意識対象をつくるところの体
    意:心 (いま流に言えば,脳)
     無色聲香味觸法 「眼耳鼻舌身意」に対応する形で同じく枠組を構成している「色聲香味觸法」,こういうものは存在しない。 色聲香味觸法:眼耳鼻舌身意がそれぞれつくる意識対象の領域
     無眼界 乃至 無意識界 「眼界」というものは,存在しない。
    「意識界」というものは,存在しない。
    眼界:眼に見えることで存在・世界となるもの
    意識界:思考にのることで存在・世界となるもの
     無無明 亦 無無明盡 ひとは「無明」すなわち「迷い」を実体があるもののように考えるが,こういうものは,存在しない。
    求道の到達する境地として「迷いが無くなる」をひとは求めたりするが,「迷いが無くなる」という位相は,存在しない。
     
     乃至  そして  
     無老死 亦 無老死盡 ひとは「老死」を実体があるもののように考えるが,こういうものは,存在しない。
    求道の到達する境地として「老死が無くなる」をひとは求めたりするが,「老死が無くなる」という位相は存在しない。
     
     無苦集滅道  ひとは「苦」から抜ける方法を求め,「苦集滅道」という枠組を立ててこの方法を考えようとするが,「苦集滅道」というものは,存在しない。 苦集:苦をとらえるための分析と総合の方法
    滅:苦を脱けることの定義
    道:苦を脱ける実践方法
     無智 亦 無得 ひとはゴールとなる智慧を想い,これを得ようとしていろいろ修行を考えたりするが,そのような智慧はもともと存在しない。
    道理として,これを得るということも無い。
     

    <思想>としての「般若心経」はここまでであり,これより後は<宗教>になる
     
    以 無所得 故  得るということがそもそも無いので  
    菩提薩垂 求道者は 菩提薩垂 (菩薩):求道者
    依 般若波羅蜜多 故  般若波羅蜜多に依ることで  
    心 無圭礙 心をなにかにとらわれることがない。 圭礙:心をとらわれる
    無圭礙 故 心をとらわれるということがないので  
     無有恐怖 恐れがなく  
     遠離 一切 顛倒夢想 俗人がやるような顛倒した考え方からは遠く離れ  
     究竟涅槃 超脱の境地に入る。 涅槃:超脱の境地
     
    三世諸仏 過去・現在・未来の仏は 三世:過去・現在・未来
    依 般若波羅蜜多 故 般若波羅蜜多に依ることで  
    得 阿耨多羅三藐三菩提 完全な悟りを得る。 阿耨多羅三藐三菩提:仏の悟りとしての「完全な悟り」
     
    故 知  故に知るべし、  
    般若波羅蜜多 般若波羅蜜多は  
     是 大神咒
     是 大明咒
     是 無上咒
     是 無等等咒
    これ大神咒なり。
    これ大明咒なり。
    これ無上咒なり。
    これ無等等咒なり。
     
     能除 一切苦
     真實 不虚
    よく一切の苦を除き、
    真実にして虚ならず。
     
     
    故 説 般若波羅蜜多咒 故に般若波羅蜜多の咒を説く。  
    即 説咒 曰 すなわち咒を説いて曰わく、  
    羯諦 羯諦 波羅羯諦
    波羅僧羯諦 菩提薩婆訶
    羯諦 羯諦 波羅羯諦
    波羅僧羯諦 菩提薩婆訶
     
     
    般若心経 般若心經