Up 「接ベクトル空間」の考え方 作成: 2018-01-16
更新: 2018-01-17


    球面では,各点 \(x\) に対し,つぎの条件を満たす平面 \(P(x)\) が存在し,且つただ一つ存在する:
      \(x\) を通る任意の曲線は,\(x\) におけるこれの接線が \(P(x)\) に含まれる
    \(P(x)\) は, 「\(x\) における接平面」と呼ばれる。

    これに倣って,多様体 \(M\) の「接線」「接平面」──但し,言い方を「方向ベクトル」「接ベクトル空間」に替える──を定める。
    直接翻訳すれば,つぎのようになる:
      \(C\) を \(x\) を通る曲線全体に亘らせたときの,\(C\) の \(x\) における方向ベクトル全体は,ベクトル空間になる。
      これを \(T(x)\) で表し, 「\(M\) の \(x\) における接ベクトル空間」と呼ぶ。


    「\(x\) における方向ベクトル」を定める場所は,\( M \) ではなく,地図帳の中の \(x\) が現れる地図になる。
    そして,\(x\) が現れる地図は複数ある。
    「\(x\) における方向ベクトル」は,地図に依存するものになる。

    しかし,「\(x\) における方向ベクトル」は,地図に依存するが,互いに無関係なわけではない。
    二つの地図 \(\phi,\, \psi\) それぞれの上の「\(x\) における方向ベクトル」全体は,\( C^r\) 級座標変換 \( \psi \circ \phi^{-1}\), \(\phi \circ \psi^{-1} \) の上で同型に対応する。
    よって,「方向ベクトル」は,一つの地図の上で考えればよい。

    そしてこのときつぎのようになる:
      \(C\) を \(x\) を通る曲線全体に亘らせたときの,\(C\) の \(x\) における方向ベクトル全体は,\( M \) を \(n\) 次元として,\( \mathbb{R}^n \) の部分ベクトル空間になる。
    これを \(T(x)\) で表し, 「\(M\) の \(x\) における接ベクトル空間」と呼ぶ。