Up 「一般」の意味:量の一般次元化 作成: 2017-12-20
更新: 2017-12-20


    テンソル理論の導入として,「速さ×時間=距離」のテンソルを説明してきた。
    ここから,テンソル一般の論に入る。

    この「一般」の意味は,「一般次元」である。
    「速さ×時間=距離」の中の速さ,時間,距離は,1次元ベクトル空間としての量であった。
    この「1次元」を「n次元」に一般化していく。

    以下,ベクトル空間の係数体をKとする。


    (1)  量の単位は,線型空間の基底に一般化される。
    単位は,一個の量で成った。
    n次元の線型空間の基底は,n個のベクトルで構成される。

    (2)  量 \( \bf q \) に対しては,a倍の作用を考えた。
    線型空間では,これがベクトル \( x \) に対する行列 \( A \) の作用になる。

    (3)  量の単位の変更 u→u′ は,数aを用いて
      u′ = au
    で表現された。
    ベクトル空間の基底の変更 : \( \widetilde{\bf e} = ( {\bf e}_1, \cdots, {\bf e}_n ) \rightarrow \widetilde{{\bf e}^{'}} = ( {{\bf e}^{'}}_1, \cdots, {{\bf e}^{'}}_n ) \) は,量のときのaが行列Aに替わって,
      \[ ( {{\bf e}^{'}}_1, \cdots, {{\bf e}^{'}}_n ) = ( {\bf e}_1, \cdots, {\bf e}_n )\, A \]
    で表現されるものになる──Aを基底 \( \widetilde{\bf e} \) から基底 \( \widetilde{{\bf e}^{'}} \) の変換行列と呼ぶ。

    (4)  量構造の準同型 homomorphism は,「一方が2倍,3倍,‥‥のときもう一方も2倍,3倍,‥‥」の「比例関数」であった。
    ベクトル空間の準同型は,線型写像になる。

    (5)  量の単位 \( \bf u \) から,つぎの双対の関数が導かれる:
      \[ {\bf u}^+ : x \longmapsto x\, {\bf u} ;\ \ 数 → 量 \\ {\bf u}^* : x\, {\bf u} \longmapsto x ;\ \ 量 → 数 \]
    ただし「双対」のことばは,通常 \( {\bf u}^* \) に対して専ら使われる──「 \( \bf u \) の双対 \( {\bf u}^* \)」。
    n次元ベクトル空間Vの基底 \( \widetilde{\bf e} = ( {\bf e}_1, \cdots, {\bf e}_n ) \) から,つぎの双対の線型写像が導かれる: \[ \widetilde{\bf e}^+ : (x_1, \cdots, x_n) \longmapsto ( x_1\, {\bf e}_1, \cdots, x_n\, {\bf e}_n ) ;\ \ \overbrace{K \times \cdots \times K}^n → V \\ \widetilde{\bf e}^* : ( x_1\, {\bf e}_1, \cdots, x_n\, {\bf e}_n ) \longmapsto (x_1, \cdots, x_n) ;\ \ V → \overbrace{K \times \cdots \times K}^n \] \( \widetilde{\bf e}^* \) を,\( \widetilde{\bf e} \) の双対という。

    (6)  比例関数 \( f \) :量1 → 量2 は,量1,量2 それぞれで単位 \( {\bf u}_1,\, {\bf u}_2 \) を固定することで,「y=ax」の「a」に表現された:
      \[ \begin{array}{ccc} & f & \\ 量_1 & \longrightarrow & \ 量_2 \\ {{\bf u}_1}^* \downarrow     & &    \downarrow {{\bf u}_2}^* \\ 数 & \longrightarrow & 数 \\ & a & \\ \end{array} \]
    aをfの表現数と一旦呼んでおく。
    こうして,比例関数 \( f \) と量 \( \bf q \) に対する \( f({\bf q}) \) は,\( \bf q \) の測定値に \( f \) の表現数を倍する計算で求めるものになった。

    線型写像 \( F \) :線型空間 \( V \) → 線型空間 \( W \) は,\( V,\, W \) それぞれで基底 \( \widetilde{\bf e} = ( {\bf e}_1, \cdots, {\bf e}_n ),\, \widetilde{\bf f} = ( {\bf f}_1, \cdots, {\bf f}_m )\) を固定することで,行列Aに表現される:
      \[ \begin{array}{ccccc} & F & \\ V & \longrightarrow & W \\ {\widetilde{\bf e}}^* \downarrow     & &     \downarrow {\widetilde{\bf f}}^* \\ \overbrace{K \times \cdots \times K}^n & \longrightarrow & \overbrace{K \times \cdots \times K}^m \\ & A & \\ \end{array} \]
    AをFの表現行列と呼ぶ。
    こうして,線型写像 \( f \) とベクトル \( \bf v \) に対する \( f({\bf v}) \) は,\( \bf v \) の座標ベクトルに \( f \) の表現行列Aを作用させる計算で求めるものになる。