Up 必須元素 作成: 2025-04-14
更新: 2025-04-14


  • 「必須元素 (essential elements)」
      植物のバイオマスを構成しその生理的機能を営むうえで必要とされる元素。
      17種が挙げられる。

  • 「養分」
      植物が吸収できる形態の必須元素


  • 生体分子の骨格となる元素
      C, H, O

  • 生理的機能に与る元素
      大杉·他 (2024), pp.224,225
    グループ1 (N, S, P) :
    主要な有機物構成元素である.
    CHO 骨格にこれらの元素が加わり,
      タンパク質 (N, S) ,
      リン脂質 (P),
      核酸 (N, P) ,
      生体内のエネルギ一物質である ATP (N. P)
    等の生物の基盤となる分子が作られている.
    地殻中の濃度は低く (表2.3参照), 生態系への加入は限られているため,これらの元素 (とくにN. P) の可給性が植物生育を制限しやすい.
    このため,これらの元素は, 生態系内部でリサイクルされ,系外に失われる割合は少ない.
    NはCと直接, PはO を介してCと共有結合しており, Sはその両方の形態がある.
    この化学形態の違いのため,有機物中のNとPの無機化には異なる分解酵素が必要であり,両者の循環様式に大きな違いが生じる.
    土壌有機物の分解 (Nの場合は硝化も含む) にともない無機化されたこれらの元素の形態は,
     NH4+のみが陽イオンであり,
     その他は酸化された陰イオン ( \( NO_3^-,\ SO_4^{2-},\ PO_4^{3-}) \) となる.

    グループ2 (Ca, K, Mg) :
    アルカリ・アルカリ土類金属に属す必須元素で,陽イオンとして存在する.
    植物体内において.
      Ca は, ペクチンと結合し細胞壁を安定化させ,
    Mg は, クロロフィルの分子構造の中心に配位し, 光合成の光エネルギー吸収を担い.
    Kは, 浸透圧調整や酵素の活性化の役割をもつ
    等,多くの植物生理反応に利用されるため,植物の必要量も多い.
    グループ1元素に比べ, 地殻中に豊富に含まれ,岩石母材の化学的風化により陽イオンとして土壌に供給されやすい.
    このため植物生育の制限元素になりにくいが,同時に土壌から溶脱されやすい.
    土壌有機物中の濃度は低い.

    グループ3 (Fe, Mn, Cu, Zn, Mo, B, Cl, Ni) :
    これらの微量栄養素の多くは酵素 (触媒) 反応に関与するため,酵素性元素ともよばれる.
    酵素の多くは電子の授受をともない,金属元素を必要とする.
    Fe, Mn は光合成などの電子伝達系に利用される.
    B,Cl 以外は複数の酸化状態をもつ遷移金属元素で, 一般的な土壌pH環境では水に溶けにくい酸化物として存在するため,植物必要量は少ないものの, 生物生産の制限元素になる場合がある.
    老朽化水田での還元溶解による水稲の鉄欠乏や, 強風化熱帯林土壌における非共生的窒素国定 (ニトロゲナーゼ反応) のMo 制限が知られる.
    植物の根や微生物が分泌する低分子有機酸は,これらの元素を含む鉱物の溶解を促進する.
    一部の微生物やイネ科植物は,鉄の溶解・吸収に特化した有機酸 (シデロフォア,鉄キレート化合物) を合成する.



  • 引用文献
    • 大杉立・他 (2024) : 大杉立・堤伸浩 [監修] :『土壌学』(朝倉農学大系 9), 朝倉書店, 2024.