Up 「不耕起」の領分 作成: 2024-04-03
更新: 2024-04-03


    土壌の表層は,独特な層で,「腐植」と呼ばれる。
    この内容は,生物遺骸 (特に植物遺骸) から始まる有機物変換である。
    変換をするものは,土壌生物,特に無数の土壌微生物である。
    「腐植」は,この内容を以て,土壌生産の工場に見立てられる。

    「腐植」は土壌生産の工場なので,これを破壊することは,そのまま土壌破壊になる。
    土壌破壊とは,土壌が無くなるということである。

    土壌が無くなることは,その地がしばらく,あるいはずっと,不毛の地 (サバク) になることである。
    なぜなら,腐植ができるのに要する時間は,ひじょうに長いからである。
    現在サバクになっている地は,もし腐植が復活するときには,最低 1000年はかかる──と見込むことになる。


    農業の耕起は,腐植の破壊である。
    よって,耕起を方法とする農業は,サバク化を進めるものである。
    これから 1000年は,サバクに土壌が戻ってくる時間というよりは,その前に人間が大地をほぼサバク化してしまう時間の方になりそうである。

    これは,「不耕起栽培」が出てくる一つのコンテクストである。
    しかし,不耕起栽培は,耕起栽培に換わり得るものではない。
    農業は商品経済に取り込まれており,大量生産を強いられている。
    不耕起栽培では,大量生産にまったく間に合わない。

    現代人にとって土壌は,耕起して無機肥料を投入した土壌である。
    実際,現代人は既に,土壌の意味を<空気と水と無機肥料をいい按配に保存するもの>に取り替えてしまっているのである。
    <空気と水と無機肥料をいい按配に保存するもの>は,プラスチックで実現できればそれで足りる。
    この先
      「<空気と水と無機肥料をいい按配に保存するもの>は,
        プラスチックで実現する方が低コスト」
    となった段には,ひとはよろこんでプラスチックに移行する。
    実際,商品経済の農作の方向は,「土壌栽培 → プラスチック栽培 → 水栽培」である。


    「健康」の概念も,これに伴って変わることになる。
    実際,ひとは「健康」をそれぞれの所与の中で考えているのである。
    「健康」は所与の中で考えるもの──ということである。

    プラスチック栽培世代の者は,プラスチック栽培作物を所与として「健康」をあれこれ気にする。
    水栽培世代の者は,水栽培作物を所与として「健康」をあれこれ気にする。
    各世代には,その世代特有の身体的特徴 (障害) が現れることになるが,これはその世代の所与であり,その世代はこの所与の中で相変わらず「健康」をあれこれ気にするのである。


    商品経済は,あらゆる分野でサバク化を進める。
    ひとは,サバク化の進行を所与とし,この中で淘汰され進化する。
    ひとはこの進化を,頭では嫌味に思うかも知れないが,生活者としてはこの進化を気に入っているのである。