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Dawkins (1989), pp.41,42
自己複製子の変種間には生存競争があった。
それらの自己複製子は自ら闘っていることなど知らなかったし、それで悩むことはなかった。
この闘いはどんな悪感情も伴わずに、というより何の感情もさしはさまずにおこなわれた。
だが、彼らは明らかに闘っていた。
それは新たな、より高いレベルの安定性をもたらすミスコピーや、競争相手の安定性を減じるような新しい手口は、すべて自動的に保存され増加したという意味においてである。
改良の過程は累積的であった。
安定性を増大させ、競争相手の安定性を減じる方法は、ますます巧妙に効果的になっていった。
中には、ライバル変種の分子を化学的に破壊する方法を「発見」し、それによって放出された構成要素を自己のコピーの製造に利用するものさえ現われたであろう。
これらの原始食肉者は食物を手にいれると同時に、競争相手を排除してしまうことができた。
おそらくある自己複製子は、化学的手段を講じるか、あるいは身のまわりにタンパク質の物理的な壁をもうけるかして、身をまもる術を編みだした。
こうして最初の生きた細胞が出現したのではなかろうか。
自己複製子は存在をはじめただけでなく、自らのいれもの、つまり存在し続けるための場所をもつくりはじめたのである。
生き残った自己複製子は、自分が住む生存機械 (survival machine) を築いたものたちであった。
最初の生存機械は、おそらく保護用の外被の域を出なかったであろう。
しかし、新しいライバルがいっそうすぐれて効果的な生存機械を身にまとってあらわれてくるにつれて、生きていくことはどんどん難しくなっていった。
生存機械はいっそう大きく、手のこんだものになってゆき、しかもこの過程は累積的、かつ前進的なものであった。
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- 引用文献
- Dawkins, Richard (1989) : The Selfish Gene (New Edition)
- Oxford University Press, 1989
- 日高敏隆・他[訳]『利己的な遺伝子』, 紀伊國屋書店, 1991.
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