Up 敵前逃亡罪 作成: 2024-05-02
更新: 2024-05-02


    日本に生まれた者は,自分を日本人と定める。
    自分と日本を同じにする。
    日本が外国と戦争になれば,「日本兵」を行動する。
    そうでない振る舞いを自制する。

    A地に居る者は,自分をA民と定める。
    自分とAを同じにする。
    A地が地震で被害に遭えば,「A被災者」を行動する。
    そうでない振る舞いを自制する。

    日本が外国と戦争になれば,自分は「日本兵」を行動せねばならない──という論理はない。
    A地が地震で被害に遭えば,自分は「A被災者」を行動せねばならない──という論理はない。
    しかしひとは,「日本兵」を行動し,「A被災者」を行動するようになっている。
    なぜか?
    自分では意識していないが,こうなるように仕込まれてきたからである。


    マスコミは,A地で被災した者を「A被災者」に括り,「A被災者」の絵を求める。
    マイクやカメラを向けられた者は「空気を読む」の(てい)で,「A被災者」として優等生のパフォーマンスを返す。

    これは,虚構である。
    しかしひとは,この虚構を求める。
    ひとは,この種の虚構でもたれ合っている。
    なぜか?
    「共同体とともにある」が,ひとの正義になっているからである。


    共同体は,善悪をつくる。
    善悪は,共同体を保つ装置である。
    そして最も大きい悪になるのが, 「敵前逃亡」,
    共同体は員に,「敵前逃亡」を罪とする正義感を醸成する。

    今日,災害があったところは,毎年命日を催す。
    災害に遭ったのが年内であれば,その年は月命日を催す。
    これをマスコミが逐一報道する。
    そしてこのとき言われることばが,「風化させない」。

    「風化させない」には,二つの意味がある。
    被災自治体が使うときは,「支援交付金を出し続けよ」である。
    そしてもう一つが,「敵前逃亡は許さない」である。

    大きな災害はコンスタントに起こるが,今後はその一つ一つに「風化させない」が唱えられるようになる。
    これは,世の中が「風化させない」で溢れかえるということである。
    ひとが「敵前逃亡は許さない」に縛られそして自ら縛る一方になる,ということである。


    「風化させない」は,こんなふうになるのがオチである。
    されば,風化させた方がよい。
    「安全・健康」の声が喧しい社会は,ひとの「生きる」が本末転倒する。
    ひとは安全・健康のために生きているのではない。  

      「災難に逢ふ時節には災難に逢ふがよく候。  
       死ぬる時節には死ぬがよく候。  
       是はこれ災難をのがるる妙法にて候。」